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Spring of Words -こぼれおちることば- Archive

幻
あのときみた風景は、まぼろしだったのか
そう思ってしまうほどに
時はすべてのものの濃度を薄めてゆく
水溶液で言うなら、王水よりも強力な酸化力を持つはずが
デジタルデバイスに映る色は
いつまで経っても濃いままの色
(かと思いきや、その濃い色が一瞬で
デリートされてしまったりするのには参る)
だから
過去を編集することに妙にこだわってしまって
きっと前に進みにくかったんだろうななんて思って
ちゃんと触れていよう
そう思ったのは
いつだったっけかなぁ

Silence

たとえば
ヘッドホンの音量を最大にして
2速から3速、3速から4速へ
つなぐクラッチのむずかしさ。
体に感じる加速度の変化や
エンジンのかすかな振動を
全身で感じ取り、
馬力の過不足を判断する
困難さを想像してみると
普段なにかをするとき
いかにたくさんの感覚に頼りきって
行動しているかを思い知らされる。

だからたまにはどこかの入力を不能にして
ふだんあたり前に思っていて気づかないいろいろを
想像してみるの。
目の前にいる誰かの気持ちを
想像してみるの。

yy

DAWN

夜明け

2011年8月14日(日)
03:57

盆。丸い月がこうこうといつもより少しだけ涼しい夜をやさしく照らしている。
この灯りにまぎれて、ご先祖様たちが縁側でわいわいおしゃべりしているように思える。
私は所謂無宗教人間だが、頭の中で霊的な世界が踊っているなら大丈夫。
安心して夜は灯りを落とそう。
まぶしい朝日を拝むために。

丸い月をとりまくエピソードといえば
誰もが小さな頃、
いつまでもついてくる満月に
追いつこうとしてみたことがあると思う。

だがそれを今も追いかけてる人を知らない。
追いかけても追いかけてもいっこうに届かないことを知り、
あわよくばいつか追い付いて蹴飛ばしてやろうと
淡い期待を抱くことがいつの間にかなくなった

大人になってわたしたちは、満月はいつも見守ってくれているだけのもので、
蹴り飛ばすことなんて到底次元が違う話だと知っている。
だったらせめてできるだけ丁寧にいよう。

正しいとされることで
それを知らないこどもを 責め立てることなく、
立派なことで 自分自身を囲い込むでなく、
自身に潜む 一抹のファンタジーを取り出して
せっかくの機会だから ぷぅ〜っと息を吹き込んで
ふくらませてやろうではないか。

yasufuku

鎮魂歌

「証明」
誰かを想うということ
或は
誰かに想われるということ
キキとジジのいる街
「希望」
今日一日の終わりに
となりに眠るだれか大切なひとの
体温を感じること
鳥と空
「代償」
誰もが日々
なにかを得、なにかを捨て
或は
なにかを捨て、なにかを得る

築くことではなく
耕すこと
丁寧に耕すこと
気球が飛ぶ朝
ぼくらは漂う
いつのまにか、上を目指すことこそが
幸せなものだと思い込んだまま
それがごっそりひっくり返されて
また思うんだ
幸せに気付く時間があることが
しあわせだと

今日もなにかが始まり
なにかが終わる
誰かを守るために今日を生きる

たいせつなことは
生きているということ
いまあなたが生きているということ

——————谷川俊太郎「生きる」へのオマージュとして

アノニマスだけど気になった言葉

私の心臓の音をお聞きいただきありがとうございます。

とても不思議な縁ですが
いまあなたは私の心臓の音を聴き、
私のために人生の一部を費やしてくれました。

そしてこの同じ世界を生きている。
そう思うととても不思議な気持ちになります。

私とあなたが出会うことはきっとないでしょうが
どうか私とあなたがお互いに健康で、幸せに過ごせますように。

クリスチャン・ボルタンスキー「心臓音のアーカイブ(Les Archives du coeur)」
2010年8月 瀬戸内国際芸術祭にて。

When You Wish Upon a Star

最近星が綺麗だと 思うことがなかったのは
単に私の目が曇っていたのか
月がまぶしすぎたのか
見上げることが少なかったのか
はたまた光ばっかりを見ているからなのかは定かではありませんが
今日家に帰ってくると最高の星空が出迎えてくれました

都市の描く幻想に踊らされないで
一歩ずつゆこうとおもいました。
夏の夜空
どうかその光があなたを照らすひとつの点とならんことを。
Anything your heart desires will come to you.

追憶の記録

混沌

この世界で営まれるあらゆる日常は幾層にも重なって
混沌とした旋律を生み出す

目の前の大気に含まれる酸素が可視化され、それらの分子が膨張し、
どこからか湧き出る風に乗って舞い上がる

ぽつりぽつりと 静かに、周囲の物体までもが昇華し、透明になっていく
その風景はまるで深い深海 あるいは 空の彼方に浮かぶ雲の中にいるかのよう

そこにははじけて突如消えるもの
見えないところまで昇り続けるもの
泥にまみれて朽ちていくもの
その様相は かくも切なく、美しい

私は何かを考えるでもなくただただぼんやりとそれを眺めていた

暗黙の了解

ぐるぐるぐる

まわるまわるぐるぐるまわる

200号ぐらいにもなるお手製のキャンバスに去年硬い鉛筆で描いた線は

びしょびしょに濡れてしまったせいでにじんでいた

その下書きの上にはこれまでに使ったことのないパステルで淡く塗り重ねられていて

無機質で硬い雰囲気の絵にあたたかみや曖昧さが加わっていた

その共同制作の作品づくりにはこれといって特別な打合せはなくて

だけどなんだかそれは当時私が無意識的に行ってきていたテンペラ画の色の重ね方にも似た新たな様を呈していた

あと三年ほどはちょくちょくと手を入れさせてもらって

そしたら大きな振り子時計のある古い家のだだっぴろい廊下に控えめに飾らせてもらおう

この絵の完成形は予想がつかない

というよりも完成形というかたちがあるのかどうかも定かでない

でもだからこそ手を入れて行く価値をわたしたちは見出し合う

その先を見たいわけではない

明るい未来がそこに見えるわけではない

素晴らしい作品をつくりたいわけではない

私たちを繋ぎ止める何かが欲しいわけでもない

いまそのままでいい

結局そこかと罵られても仕方ないが

ただなんとなく、そこに向かえと

もうひとりの私が言っている気がするのである

分かりやすい丁寧な解説つきの見方を強要される絵で納得されるより

アノニマスでありながらその画面一つで心を打つことができる何かを探す

それが私たちの旅するもの同士の暗黙の了解である

アノニマスな風景

力んでいると感じた時は、猫に聞く

少し肌寒いぐらいの凛とした空気の中、絶えず降る注ぐ光が心地よくて長い間ベンチに座っていた

いつまでも孤独をかかえてこのままたたずんでいたいと思う夢のような瞬間

情熱的な太陽の光は冷たい空気と混じり合う

この光のもとでいつまでも思索にふけっていたい

そこらに生い茂る雑草でさえ愛しく思える。空を見上げ自然を感ずる

こんなにも穏やかな気持ちを私に与えてくれる自然

こんなにも多くの恵みを愚かなわたしたち人間に与えてくれる

これからも彼らと共に やさしく美しく強くたくましくたたずんでいよう

今日も猫がごとく スケッチブックと文庫を片手に 自由に世界を渡るのである

猫

From R to L, L to R

右から左。
左から右。
なんともなしに風景は過ぎ去ってゆく。

左の真っ暗なトンネルからでてきたさっきの車は
ぼくの車と同じ進行方向を向いてどこまで同じ方角を目指すのだろう。
スピードが早くて追いつけそうになくても
その先の信号機につかまったらまた追いつけたりするのは
どこか人生における節目や分岐点のようなものに似ているようで
なんだかおもしろいななんてちょっと思ってみただけだけど
まぁそんなことはどうだっていい。

もうかなり昔の話だが
当時の私の人生の進路を変えてしまうほどまでに
衝撃的な出来事が起きた。
そのまましばらくふさぎこんだ。
そこまでは仕方のない話だと片付けた。

時は流れ、ふと気付いた。
季節の変わり目にいつの間にか
クーラーのスイッチを入れなくなっていたみたいに
少しずつきみを思うことが少なくなっていた。
時は無常で残酷だった。
というよりは時が変える人の心が怖かったという方が正しいかもしれない。
きみを思うことが少なくなったと思うたびにあんなに一緒だったのにと自分を呪った。

もちろん今はそうは思わない。
全く思わないといっちゃ嘘になるけれど
歳を重ねて僕は
何かを得るためには何かを捨てることが必要なことを学んだ。
得ることと失うこと。
楽しいことと苦しいこと生きること死ぬこと。
全てには裏が存在し
表と裏で一体をなしている。

そんなの当たり前のことなんだけれど
それを意識して言葉に出せるか出せないかの差は絶望的なまでに大きい。

エーテル

甘い蜜の香りに誘われて窓の向こうの森の中に迷い込んだ
きみはとりつかれたように闇の奥へと消えていった
ぼくはきみを見失った

太陽の下にいるときはこの影が僕から離れることがないのと同じように
ぼくは全てのものと離れられなかった
離れようと思っていること自体が
離れられない何よりの証拠だった
それはまた 時は止められないことをも示していた

きみをこの視界から見失ってから、どうしようもないぐらいに迷っていた
いつの間にか光を失っていた
必死に光を探した
どんなに探しても見当たらなかった
ある時 光を探すのをやめて 静かに目を閉じた
それは僕なりの死ぬ覚悟だったのかもしれない

そうすれば、真っ暗闇の中でも進んで行けるようになっていた
毎日は果てしない旅の道中にあった
迷っているかいないかを決めるのは自分だった
もう光を見失わなかった

ぼくはときおりこうやって言葉を吐き出す
そうしないと今にも何かに潰されてしまいそうでこわくて
その何かが何なのかを表す言葉をぼくは知らない
だがその何かは確実に存在した
それはいろもかたちもなくて
この世をつなぎとめる
まるでエーテルのような存在
なんとなくだけれどそれがなくなってしまえばぼく昔憎んでいたそれもなくなってしまう
なんだかんだでぼくにはその目に見えない何かが必要だった

STARS

そーいや、しばらく前やけど流れ星を見た。
友人に流星群が来ていることを電話で聞いたので
作業を一旦中断して午前3時ぐらいやったかな
ひとり、学校の一番暗そうな場所を探して
階段に寝転んでぼんやりとしばらく佇んでいた
それでも照明が明るくて見えへんのやろなーと思いきや、
かなり明るく輝く光の筋が空を舞った。
それから身構えて空を見上げたんやけど、そのとき見えたのはそのたった一度きりだった。

こんなにも遠くはなれたところにあんなにも明るく輝く光が届くなんて。
そして何より感動が届くなんて。
結局一度しか見られなかったけど、その一度で十分だった。

きっと流星群ってぐらいやから、ほんまにいっぱいの星が流れとって、
そのごく一部のとびっきり明るいのんか、地球に近いのが俺の目に届いてて、
しかもそれは何年も前の光で。

星って見逃してたり見えなかったりすることが山ほどあって、
それはきっと俺らの日常と一緒でなんだか素敵ねんよな。

その見逃しているものが少しずつ見えるようになってきたら
とてもやさしい気持ちになれそう。
目先のことばっかにイライラせず、
今対峙している目先のことを大切にして。

これからもがんばろう。
星はいろんなことを教えてくれた

_______________________________________________
コインランドリーでひととおりの仕事を終えたきみは椅子に置いてあった文庫本を読みだした
そこで営まれる日常はなぜかとてもドラマチックで
とてもうらやましかった
子供と遊ぶきみの目はいつも輝いていて
その瞳の先にあるのが僕だったらなと
ちっちゃな子供に情けないけど嫉妬してたことを思い出すよ

きみは時々くすんだ瞳をした
そのくすんだひとみには何が映るのか知りたくてのぞきこんだら
きみはいぶかしげな顔をして
ふと思い出したように
ぼくらがつくりだした幻の中に
真実があってもいいと言った
会話は ただそれだけだった

ある日 夢を見た
なぜだか現実にあった出来事のようにリアルで
いまでも何だか心の中でふわふわと浮いているかのような感覚がした。
いつ止むともしれない雨のなかに佇むきみはなぜかとてもまぶしくみえて
眠れない夜にはいつもなぜだかそんな光景が瞼の裏を横切ってく
雨のしずくが木々をゆらすそのリズムが耳の奥の方からきこえてくる

そんなとき僕は少年時代によく登った山へいき
一風変わったマスターベーションをする
だれもいない山の峠にある滝の中で何も纏わないで水に体を預けて
混沌と静寂の中で
宇宙と交信するんだ

雨が降り出しても何も気にならなかった
数時間ものあいだ
雨に打たれていた
どれくらいの時が経ったんだろう

ぼくは井の中の蛙だった
どこまでも深い意識の奥底に閉じこめたまま深い記憶の海の大海原で ただただ流されていた。

ある日 私は目覚めた
秩序立った世界からふらりと抜け出して いつの間にか自由を手にしていた。
赤ん坊が初めて目を見開いてこの世界の空間の広がりを知るときのそれとは違って、まるで食わず嫌いの椎茸がいつの間にか毎日口にしても苦じゃなくなっているみたいに。
つまりはある日突然じゃないもので、
もしかしたら自分を掘り起こす過程の中で自分の中にある無意識が意識化していたのかもしれないし、あるいはその逆で、
意識が無意識化して意識がシンプルになって、意識を惑わすものがなくなったからよく見えるようになったのかもしれない。

いずれにせよ、私はここに立っていた。

全てのものを軽蔑していた
ある日その全てを見たいと思った
全てを見ずして軽蔑など人間の権利にはありえなかった
私は神でないことを知っていた
全てを見ようと動いた
見ようとすればするほどそれは増幅していった
どんなに見ようとしても小さな人間には不可能であることを悟った
全ての存在を否定できなかった
肯定するしかなかった

いつのまにか昔軽蔑してばかりだった全てを愛するようになっていた
認めることで初めて愛することを知った

なにしたってこの身滅ぶときに世界は思った以上にかわらない
だったらおもいっきり叫んでやるんだ
もう止まらない
この想い 誰にもとめさせない
時は止まらないし止めさせやしない

未来はいまこの手のなかに
ぎゅっとこころで握りしめて
もう離さない

この宝石箱だけはこの身が滅びようとも渡さない

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