Tip69: 井戸を復活する

以前住んでいた家は井戸ポンプが設置されていて、Tip4: ポンプを動かすでポンプを動かしたが、今回は井戸を掃除し、ポンプを設置するところから行った。

購入した工場があるところの谷を直線距離で60mほど下っていくと義理の祖父がつくっていた井戸があった。2m余りの掘り抜き井戸で、そこから25mほど高い位置にあるタンクにくみ上げ、その水を薪で湧かして主に風呂に利用していたようだ。

地面から飛び出していた草刈りにとても邪魔な蛇口。井戸水を水やり用に使っていたのだろう

上水道もきちんときているのだが、新たに暮らす場所をこしらえるにあたって、地下に豊富に流れる水をメインで利用したいと思っていた。以前住んでいた場所では上水道が通っていなかったため暮らしの全てを井戸水頼りにしていたが、特に不便な思いはせずに暮らしていたし、何なら水も塩素臭くなくおいしく感じるし、心なしか、肌の調子も良い。いつしかミネラルウォーター暮らしが気に入ってしまったのだった。

水は都市農村限らず地面を掘れば流れているものだが、街中や農地が広がる地域では汚染が心配だ。近隣に家も田畑も無い我が家で利用できれば、まさに山のおいしいミネラルウォーターである可能性が高い。ウォーターサーバーやペットボトルで売られているような水が風呂にもトイレにも使い放題なのはお金に換えがたい贅沢ではないだろうか。

水が循環する暮らしはやっぱり良い

水は人が暮らす上で最も重要な要素と言っても過言ではない。水が無いと調理もできなければ、手も洗えないし風呂も入れないし水洗便所も設置できないので衛生的で快適な暮らしを脅かされるだろう。何なら人間のほとんどが水でできていて、数日間水が飲めなければ当然死んでしまう。そんな大事なものを人任せにするのでなく、置かれた環境の中で工夫しながら、自然の大きな循環の中にきちんと身を置いて暮らすことをしたかった。

水を汲んで使うということは当然流す水も意識するようになり、それはまた循環していく。暮らしにそのような循環があると、矛盾がなく、心地よい。水脈や水質が変わらない限りは水の心配がないという安心感があるし、使えば使うほど環境を汚す訳でもなく、水道代がかかるわけでもなく、また循環していくので水を使い放題なのに環境にも優しい。

気にする事無く使っているのに環境にもやさしいというのが私にとっては心身ともに健康に生きられる、最高の選択だった。

井戸をどこに据えるか

井戸をどこに据えるかはなかなか難しい。調べてみると平野だと近隣地区で出ているなら近隣と同じくらい掘れば出やすいが、特に山等は掘る場所によって出ない場所などがあり、特に山の尾根では10m以内程度の穴では水が出にくい傾向があるようだ。普通に考えてみれば尾根でなく谷伝いに水が流れていくのは当然だ。今ある井戸も大雨のとき等に沢ができるような谷にあった。そこならそれほど掘らなくても確実に水が出ると想像がつく。

既存の井戸に据えられていたポンプはモーターに水をくみ上げるためのパーツを組み合わせた、材料代1万円程度の簡素なもので、電源も延長コードをひく感覚で三相三線の電気を工場から屋内配線に使うVVFケーブルをそのまま山中の地面に這わせて作られていた。そのざっくりした仕事ぶりは、目的の風呂の水を風呂の横のタンクにためたいが、それを沢におりて汲むのはしんどいから電気の力で送ろうかというようなその場の発想の延長でつくられたように感じた。井戸掘りを一大プロジェクトのように考えず、単に水を汲むという暮らしのために必要な淡々とした営みのように捉えていたのではないだろうか。

井戸を据えた義理の祖父母には出会ったことがないが、大阪から移住し、何も無かったこの土地に工場と家を建て、工場で洗濯機の修理を生業として暮らしていた。草を集めるフォークや井戸の蓋、あるいは工場の扉など、何でもかんでも金属を溶接したり折り曲げたりして作られていた。余った材料などを使ってシンプルに作られており、工夫して暮らしてきた痕跡が至る所に確認できた。ポンプになった製品を調べ、2,30万円する仕上がった製品を見ている自分はまだまだ無知だと思わされた。

最初は井戸を既存の井戸がある場所よりも便利の良い家に近い場所に新たに掘りたいと考えていたが、そのような工夫の痕跡を見ていると、それをそのまま受け継ぎつつ、より良くできるものは改善していくのが良いなと思い、既存の井戸を使う事にした。

濁った井戸水をきれいにする

理想は生活全てが井戸水。飲用にできるか検査をしたかったのでまずは採集してみて検査に出してみることにした。

早速井戸の中の水を見てみる。手押しポンプで少しだけくんでみるとかなり濁っていた。これではきちんとした調査結果にならないだろう。祖父の作った井戸は10~20年は使われていなかったので細菌が繁殖していたり泥が混じっていてもおかしくない。水がまだきちんと湧いているかも確認したい。そこで、一度水を一度空にしてみることに。

今ついているポンプは屋根もないところに放置されていたのでかなり電極が錆び付いていて複数の端子が同じ電極で繋がっているような状態だ。これでは明らかにショートするため使えない。そこで、多少汚い水でも吸い上げられる汚水用水中ポンプを買い、排水することに。その電気をとるためのコンセントをつけるために地面を這っている電線だけでも利用できないかとポンプの配線を外して電線を倉庫のコンセントとつないで電圧を測ったみたところ、60Vほどしかなく、漏電している。危険なのでもう電線は廃棄だ。仕方が無いので電源はドラムリールの延長コードをふたつつないで井戸に電源を引っぱった。

早速ポンプで水をくみ出しきると、下に泥が沈殿していて汚かったので、一度掃除をすることに。井戸の中に入って泥をバケツに入れ、たまったら引き上げてもらい、ある程度きれいになったらポンプアップした水をまた井戸にもどして水圧で泥を巻き上げ、ポンプアップするのを繰り返した。水を出し切ってみると、確かに水が湧いていて、見た感じはとても綺麗だった。あとは一日に2,3回、満水になった井戸を何度も水を空にするのを繰り返した。

水質検査をしてみる

1週間ほどして確認してみると、それなりにきれいになったので検査をする。

保健所等でもできるようだが、現地に容器を取りにいき、持っていかなければいけないようだったので、ネット注文する事に。ネットだと現地に行かなくても送ってくれて手軽だ。

費用は検査項目数によって違い、検査項目が全51項目だと20万円ほどするが、とりあえずは飲用ができるかどうかの最低限11項目の検査にした。井戸を新設した場合等は全項目検査が必要のようだが、費用が11項目検査に比べて20倍も高額になるので、必要に応じて追々考える事に。専用のボトルが送られて来て水を提出したら検査結果が送り返されるまで2週間ほど待った。

結果、項目はほぼクリア。「ほぼ、」ということはクリアできていない項目があったのだが、大腸菌が検出された。大腸菌は一匹でも検出されるとアウトみたいだ。大腸菌というのは人間にも何億だったか何兆だったかとにかくたくさんいるもので、気にしていたら他人が入った温泉なんかとてもじゃないが入れない。人間に害のある大腸菌も多くないらしいし、井戸を使い始めると水質も変わってくるだろうから、使ってみて腹が痛くなるまで気にしない事にした。いざとなれば大腸菌を濾過できる中空糸膜フィルターというものもあるようだし、工夫を重ねればなんとかなると考えた。

ポンプを選ぼう

ポンプは高いところから低いところに流れる水などを電気の力などにより低いところから高いところに送る単純な装置だ。ポンプには様々な種類があるが、どのくらいの高さと距離に水を送りたいかによって決まる。今回はかなり距離があるため深井戸水中ポンプというものを選んだ。

水が溜まる井戸は2.5mほどと、それほど深くないので浅井戸用のポンプで良さそうだが、水を使いたい場所は井戸から山の斜面を登り、25mほど高いところまで水を送らないといけない。水平距離も80mほど送り、水平に送る場合もその1/10程度の高さに水を送る程度の力が必要なので、単純計算すると合計で井戸底2.5m+高さ25m+水平距離80m/10=35.5m程度の揚程ができるポンプを選ぶ必要がある。

水中深井戸ポンプには深井戸水中ポンプは動きを制御する地上部とモーターが稼働して水を送る水中部によってできており、吸上能力と押上能力というものがある。水中ポンプから地上部ポンプまでを吸上、地上部ポンプ以降を押上という。水中ポンプからポンプ地上部までは高さ18m、水平距離40m以下なので合計で井戸底2.5m+高さ18m+水平距離40m/10=24.5mの吸上能力が必要。地上部以降は高さ6m、水平距離40mなので、計6m+40m/10=10mの押し上げ能力が必要。

それらを満たす能力のポンプを見てみると、吸上能力4~30m、押上能力15m、単相100Vで定格出力が450Wものを見つけた。値段は20万円強。こういうマニアックな物でもポチっとネットで買えるので助かるが、ポンプは同じ製品でも60Hz地域か50Hz地域かで分かれているものも多いのでポチる前にそこは注意が必要だ。

比較的深い深さでも吸い上げられるジェットポンプという地上部のパーツのみのものもあるが、井戸のなるべく近い位置に設置する必要があるため、今回は不適。浅井戸ポンプと似ているが、配管を二つ井戸の中に入れ、水を下に噴出する力で水を吸い上げる力を補助するので、浅井戸ポンプよりも水を送る能力が高いらしい。

工事中汚れてしまったが、一応図面も書いて計画を練った

ポンプを設置する

砂を吸い上げないように水中ポンプの外側にケーシングパイプというフィルターのようなものを設けた。今回は200のVUパイプに1.6mm径の横スリットを13mm間隔で空け、さらにその中に150のVUパイプに5mmの穴をたくさんあけたものを入れることで、より砂をあげにくい二重のケーシングパイプとした。加工したパイプを井戸の中に入れ、水を送る25のパイプを水中ポンプに取り付けたものを沈めた。

この井戸からポンプの動きを制御する地上部までパイプと電気の線を通す。今通っているパイプは古いし径も細いし地上配管されていて凍結が心配なので使わないことに。より衝撃に強いHIVPパイプを使い、地中に埋めて凍結防止および景観に配慮する。ポンプ地上部の位置は水中ポンプと地上部をつなぐ電源コードの長さがちょうどの所に設置した。説明書を見るとコードを延長しないようにと書いていたためだ。ポンプの揚程能力内で届けられる場所であることもきちんと確認した。

地中に埋める距離が43m。その距離を深さ最低でも30cm、大きな石がごろごろしていて木の根っこも茂っている山の中を人力で掘るのはさすがにしんどいのでまずユンボで届くような道をいくつか作って極力ユンボで掘っていった。掘った後のパイプの接続方法はTip17: 給水管を通すでやったとおりなのでここでは割愛する。

途中、ユンボが動かなくなって、極寒の中1週間近くかけて修理した。

ポンプ置き場をつくる

穴を掘りつつ、ポンプ置き場を作る。ポンプの地上部はそのまま地面に置くと劣化するし、電気が通るものが水に濡れるのはよろしくないため、ポンプ置き場が必要だ。この置き場は山中の急斜面に遺跡のようにに転がっていた苔むした石の塊を組み合わせてつくることにした。山も綺麗になるし、材料代もかからないので一石二鳥だ。

ユンボが持ち上げられる大きさにカッターで切り、ロープやワイヤーを駆使して石塊を引き上げ、砕石を撒いてランマーで転圧した地面に並べていく。仕上げにモルタルで表面をならして、完成。屋根はとりあえず合板を渡し、ガルバリウム波板を並べて飛ばないように石を置いておいた。

コンセントを取り付ける

ポンプは電気の力で動くため、電源プラグを差すためのコンセントが必要だ。

水気のある場所で使うため、ポンプは専用回路とした。倉庫の分電盤にブレーカーが追加できる予備スペースがあったのでブレーカーを追加し、VVFケーブルを接続。そのまま倉庫の壁を支えるCチャンの中を伝って倉庫の外で地面に入り、地面を通ってポンプ置き場まで通す。ケーブルは通線ワイヤーでPF管という管に入れ、コンセントボックスとつなぎ、電線をコンセントに接続。コンセントへの接続はTip24: コンセントをつけるでやったのと同じ。コンセントが付いたらアースも埋めて井戸からの配管を繋げると完成。

さらに砂取り器を設置し、水を濾過できるようにした。今回の砂取り器はスピンフィルターと言って、水がフィルターを通る前に渦を巻いて遠心力でゴミが分離されるもの。前使っていた網だけの砂取り器はゴミが詰まって水が通りにくくなったら4本のボルトをスパナで開けて掃除をしないといけなかったのだが、これはコックをひねるだけでゴミが出てくれるのでとてもいい感じ。

あとはポンプのスイッチを入れるだけで水が出る。深井戸ポンプは「Tip4: ポンプを動かす」でやったような呼び水は不要だ。水漏れを確認し、地上に見えている水道の配管を断熱材で巻き、他は地面に埋めて完成。

ひょんなご縁から理想的な環境の古民家に出会ったデザイナーが、その日々の中で身につけた業を、日々の暮らしとともにアーカイブして行くウェブサイト。100の業が溜まったら、cotocotoというタイトルで誌面化予定。

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2021年3月から岡山県加賀郡吉備中央町の山林を譲り受け、セルフビルドで改修中。見学お手伝いは大歓迎!詳細は078-220-7211 (cott)またはこのメールフォームにてご連絡下さい。

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