Tip79: 分電盤を交換する

分電盤は家の電気のブレーカーを一カ所に集約したものである。家にもともとついていた分電盤は明らかに旧型と分かる風貌をしていた。回路数が4回路しかなく、電柱からは2本の線が屋内に引き込まれている単相単線式という方式だった。リフォームにあたっては今どきの一軒家で普通に電気を使って暮らすのに4回路では全然足りないので分電盤の交換が必要となった。

さらにそれに付随して電力量計と電柱から家につながっている引き込み線も交換が必要だった。引き込み線は新しい分電盤の容量に耐える太さ、かつ、単相3線といって、3本の線を引き込まないといけない。2本の線のままではIHヒーターや食洗機など、パワーのある200V機器を入れられないのだ。

分電盤を選ぶ

まず、必要な分電盤の容量を計算する。家の中で使う予定のコンセントや照明などの器具の電力量を足すと15180VAとなった。そうすると15180VA/100V=151.8Aとなり160Aの分電盤が必要となるかといえばそうではない。単相3線の場合、簡単に言うと+100V、0V、-100Vの線があり、+100Vの線と0Vの線で取る100Vと0Vと-100Vで取る100V、これらをバランスよく使うように回路を設計する。それぞれR相、T相などと呼ぶが、バランスよく各相に割り振って、バランスは関係ないが+100Vと-100Vの線で取る200Vの電力量も足してみると数値の高い方が7695VAとなったので、今回は80Aの分電盤が必要となる。ただ、手元には12回路で60Aの前の家で取り付ける予定だったものがあり、当面200V機器の計5000VA分を使わないつもりなので7695-5000/2=5195VAとなり、60Aのもので当面は足りるので手元にあるものを使うことにした。

分電盤を設置する

次に、分電盤の設置だが、位置は寝室の目立たない位置に変更した。全体の配線が短くなる効率の良い位置はあるが、メンテナンスさえできればどこにでも設置できる。設置作業は盤をねじ止めするだけなので特に難しいことはない。設置ができれば後は配線だが、既存の配線は一旦すべて撤去し、新しい分電盤の位置から最初のジョイントまでは基本的には新しいケーブルで配線をする事にした。屋内配線に使われているVVFケーブルは20~30年が寿命だと言われ、紫外線や風雨、高温、ネズミの被害などにさらされなければ、実際は家の寿命くらいは十分に持ち、張り替えをされることはほとんどなく使われている事が多いらしい。ただ、せっかく床壁天井をめくって電気設備も全て更新するのでついでに新しいものに変えておく方が安心で良いだろう。

ケーブルの外装には「1982」という製造年が印字してあった。おかげで棟上げの札がなくてもおおよそ築40年ということがわかった。ネズミがかじった跡などがあったが、そのように少しでも損傷しているところは全てスクラップ行きにし、外観を見てひびやへこみ、変色の無い部分だけを後でも変更できる位置の配線にのみ再利用した。電線も数年前の倍以上の値段になっているので中古品でも気楽に捨てにくい。ただし、配線が完了したら分電盤のそれぞれの回路を絶縁抵抗計で電気が漏れていないかもチェックし、数値が低ければ駄目なので再利用したものも捨てる方が良い。

屋内配線の分電盤への接続は分電盤の各回路のブレーカーを落とし、15mm線を剥いて差し込むだけ。200Vの場合は200Vに対応した2P2Eのブレーカーを一度分電盤から外し、ボタン部分をドライバーなどで押し込むだけ。最近の分電盤は安全で簡単に作業ができるようになっている。

引き込み線変更工事を依頼する

次に、引き込み線を変える工事だが、この工事は電力会社しかできないので、電力会社に工事をお願いするための申請をする。この申請は少なくとも電気工事士の免許がないとできないので、電気屋さんに頼むか、第二種電気工事士の勉強をして免許を取ることになる。私は後者を選んだが、分電盤交換作業にも必要だし、DIYで家を建てる人にはこの先も便利な資格なので、遠回りだがオススメだ。工事の申請はエリア担当電力会社ごとに申し込みシステムがあり、インターネットから行う。

まずはユーザー登録が必要で、フォームに従って入力をしていく。登録工事店番号が必須入力となっており、DIYERは若干つまづくのだが、個人の場合は免状の番号を入れると良いらしい。

完了すると人間による承認審査があるので少し待つ必要があるが、しばらくするとユーザーIDが割り振られ、システムにログインできるようになる。ログインし、決められたフォームに沿って工事担当者や現場の住所についての情報はもちろん、設置する分電盤の容量、引き込み元の電柱番号、引き込み口や屋内幹線の太さ等工事の具体的な事まで入力していく。

最後に図面を添付するとOK。添付図面は結線図、各階配線図、設備仕様書、付近見取り図なので事前に作成してPDFで用意しておくとスムーズだ。申し込みが完了すると追って工事日の連絡が来る。その内容にもよるが、申請が完了してから数週間後になるので日程には余裕を持っておくのが良い。費用についても連絡があり、今回のメーター交換と引き込み線交換にかかる費用は無料だった。

電力会社がしてくれることは引き込み線の交換と引き込み線と電力量計からの線の結線、電力量計まわりの線の結線だ。電力量計から引き込み点までの線と電力量計から分電盤の線はこちらで資材を準備し、工事を行わないといけないので、工事日までにその作業を行っておく。

まずは引き込み点から電力量計と電力量計から分電盤まで線を通す。線は将来的に使う分電盤の容量80Aを許容できる太さである14sqのCVTケーブルとした。14sqのCVTケーブルは周囲温度やケーブルの長さにもよるがだいたい86AまでOKらしい。引き込み点近辺で線を一度壁の中に通し、電力量計の裏から外に出てくるようにして線をなるべく隠すように配線した。ちょうど良いサイズのドリルの先が無かったので、小さなドリルでたくさん穴を開けて円形にくり抜いた。

メーターボックスは通常電力会社で用意してくれるが、自分でお金を出して取り付けることもできる。というのも電力会社の支給品はよく見る野暮ったい形のものなのだ。最近はちょっとだけ格好よいボックスが売られていて、1万円前後もするが、よく見るものがあまりにも野暮ったいのでそのくらいの価値はあるかもしれない。

電力量計の取り替えは電気工事士法の対象外なので免許が無くても交換できるそうだが、中国電力に尋ねると結線は外さないで欲しいということだったので、そのままにしておいた。

ただ、そうすると新しい電力量計の盤を違う位置に設置しないといけない。電力会社としてはその隣に新しい電力量計の盤を設置し、配線を工事の日までに出しておいてほしいとのこと。ただ、そうすると既存の電力量計の裏の穴が不格好だ。そこで工事日に立ち会い、電力量計の配線を撤去してもらったらすぐに盤を取り付けられるように、穴に取り付けて固定するパーツだけは先に取り付け、配線を通して準備をしておいた。

あとは工事の日を待って完成。工事は5人ほどが来て30分ほどで完了した。

分電盤や電力量計を交換する技術はデザインと関係が全くなさそうだが、電気屋さんと電力会社に任せきりにすると、せっかく家のデザインにこだわっても、野暮ったいカバーの電力量計が家の正面に取り付いていたりして勿体無いことになることがある。電力量計の位置は既存の電線や電柱との位置関係に依存するので自由に位置を決めることはできないが、調整はきく。カバーもましなデザインのものを自分で選ぶこともできる。電気は目に見えないが火災や事故を引き起こすため、理論を知っていないと怖く専門家に任せるしかないと思ってしまいやすいが、任せきりににすることなく、家の周囲や環境も含めた見え方も気にして家もデザインもつくりたいと思う。

ひょんなご縁から理想的な環境の古民家に出会ったデザイナーが、その日々の中で身につけた業を、日々の暮らしとともにアーカイブして行くウェブサイト。100の業が溜まったら、cotocotoというタイトルで誌面化予定。

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