鑿(のみ)、鉋(かんな)、はもちろん、草刈り用チップソー、笹刈り刃、チェーンソー、ドリルの先など、田舎には刃物が身近にある。それらは使っていると刃は欠けたり丸まったりして必ず切れ味が悪くなる。研がずに切れなくなったら刃ごと交換して使うように仕立てられた道具もあるが、刃を研ぐことで使い捨てのように使うよりも何倍も持ち、ものによっては一生使うことができるものになる。使い捨ての替え刃ばかりを使っていると刃を研ぐことを面倒に感じるが、刃を研ぐことを覚えると、道具の性能を引き出して使うことができ、いつしか刃研ぎの時間は仕事の一環でそう思わなくなるだろう。ものを加工する仕組みを深く知ることができ、目的に応じた自分好みの道具に仕立てる知恵もついてくる。
さまざまな刃物は形が違うために、もちろんそれぞれ研ぎ方が全く違う。それぞれを書くとかなり長くなるのでまずは鑿と鉋の研ぎ方から書いてみようと思う。
鑿と鉋の研ぎ方は難しく、家にあった古いものを見よう見まねでやっていたときは研いでもすぐ刃こぼれしてしまっていた。鑿だと木の繊維を潰すような切り口になってしまうし、鉋も職人が削るような薄皮に削って艶のある滑らかな木肌に仕上げることがどうしてもできない。当時は安物を買っているのが原因だと思ったのだが、うまく研げていなかったのだ。
鉋を研いでみる
きちんと切れる鉋にするポイントとしては3点
- 角度を測って治具を使って研ぐ
- 砥石はあまり安すぎないもので中仕上げ用と仕上げ用を2つ以上買う
- 面直し用のダイヤモンド砥石などを買う
必要な道具は分度器、治具、ダイヤモンド砥石、砥石2つは買いそろえると1万円ほどはかかるが長いこと使えるものばかりだし、刃物も一生ものとして使えるようになるので必要経費だ。
角度を測って治具を使って研ぐ
鉋で重要なのは刃先の角度で、軟木の桐では最小で21度程度、堅木では最大で35度など削る材料によって角度を変えるが、一般的には28~30度ほどに仕立てる。1度違うだけで違うので最初はきっちり測ることが大事。
研ぐ前に測ってみると、刃先は20度くらいになっていて、これではすぐ刃こぼれもするはずだ。
鉋を研ぐ治具をつくる
角度が測れたとして、素人では刃先の丸まってしまっている刃を一定の角度で研ぐのはまず不可能だ。そこで初心者に重要なのが治具を使うことだ。鉋は刃の長さが短くて市販している治具で研げるものを見つけられず、オリジナルで作った。
適当な長さに切った平鋼に戸車と鉋の刃を強力マグネットで固定したら完成。安く買えるものをマグネットでくっつけただけなので作ったというほどでもないが、融通も利くし割とずれたりせず必要十分で気に入っている。試作品1号は少し戸車が大きいので少し小さくしてみたり、戸車と鋼はボルト接合に変えてみたり少しずつ改良していこうと思う。
刃が多めに残っている鑿は倉庫の中に転がっていた市販の治具を使っているのでそれも後日追記する。
砥石を買う
次に、砥石だが、安物でなく最低ひとつ2500円ほどの国産のものを使う方が良い。
最初に買った砥石は2000円しない安物で両面が違う荒さで作られているものだった。それを2つ買い、#400、#1000、#3000、#8000という4種類の荒さを揃えた。番手が小さいものが荒く、大きいものが仕上げ用になる。それでそこそこには研げたのだが、#8000の仕上げ研ぎでいくら研いでも周りの風景が写る鏡面に仕上がることはなかったのだった。
疑問に思い、安くて国産のキング砥石の#1000と#6000を買ったらようやくそこそこ鏡面に仕上がった。#6000のキング砥石を触った限り、安物の#8000は#1500くらいの荒い手触りだった。とりあえず2種類でなんとかなっているが、刃こぼれした刃物用に荒い#220を次に買うつもりだ。
「刃の黒幕」というセラミック砥石の評判が良いのでさらにその次は少し奮発して黒幕にしようと思っている。
砥石の表面を整える
また、面直しといって、砥石がすり減ってきたら砥石の表面を平にすることも大事だ。表面に凹凸があるといくら研いでも刃先がまっすぐ研げない。
これにも方法はいくつかあるが、ダイヤモンド砥石で砥石同士をこすり合わせるのが初心者には簡単で良いと思う。研ぎ始めてから砥石がすり減ってきたら随時面直しを行う。
研ぐ前にはまずは砥石を説明書に書いてある時間(だいたい10〜20分)水に浸しておくことも忘れずに。
鉋を研ぐ
道具が準備できたらいよいよ作業に移る。
刃を外すためには鉋の台の前の左右をたたくと刃が少しずつ浮いてきて外れる。
あとは研ぐだけ。(写真の都合上片手で写っているが両手で行う。)治具のローラーのある位置によっては砥石全体を使えないので砥石を前後裏返しながら砥石全体をまんべんなく使って研ぐ。
ローラーが時々砥石から落ちてやりにくかったので次は砥石と同じ高さの台みたいなものを用意しようと思う。
角度を付けてひたすら研いで、最後に裏側を水平に少しだけ研ぐ。砥石が乾いてきたら水を適宜追加。
これを荒い砥石から順に番手をあげていって、完成。
裏側がまっすぐ研げていないときは裏出しという作業が必要なのだが、裏側から見て研いだ部分が一直線に出ていればOK。とりあえずこの鉋ではまっすぐなっていたので行わなかった。
うまくまっすぐ研げると刃が砥石にピタっとくっつき刃が立つらしいが、長年正しい角度に研がれてきていないので刃先しかまっすぐ研げておらず、この刃が立つのは何年か先になるだろう。
最後に椿油を塗って完成。
ものを切るということは誰もが暮らしの中で毎日のように行っていることで、刃は衣食住のあらゆるものづくりの現場で使われているものだ。刃を研ぐことで刃物をほぼ一生ものとして使えるだけでなく、もののつくりかたに対する眼差しが深くなるだろう。