Tip11: 排水管を通す

高校生の頃からDIYが好きでホームセンターには足繁く通ったのだがいつも立ち寄るのは木材がずらっと並んだコーナーばかりで、このコーナーに立ち寄るのはとても感慨深い。塩ビパイプコーナーである。当時はおしゃれなインテリアばかりにこっていたので無骨な樹脂製のネズミ色のパイプは魅力的には見えず、必要に迫られ15年越しでようやくやってきたのだった。

排水管はその名の通り、使った水を流す管で、排水工事は地面を掘って水下に向かって下がるように勾配をつくり、重力を利用して水が流れるように塩ビパイプを通すだけの単純な工事で、言わばそうめんながしと同じ原理だ。パイプとパイプ同士をつなぐパーツを買って来て専用の接着剤を塗ってつないでいくだけなので、穴を掘れてレゴブロックができるのであれば誰にでもできると思う。農家のおじさん方も穴を堀り、うまくパイプを組み合わせて田んぼの水が抜けにくいところの排水工事をしているのを目にする。私も排水工事についてはホームセンターのパイプコーナーから適当なパイプを買って来て流したいところからマスへつなげば良いだろうと農家感覚でいたのだが、そういえば家の排水についてはそういうわけにはいかなかったと工事を進めながら、昔建築士試験の時に勉強したはずの事を少しずつ思い出していった。

家に使う排水管には注意しておかないことがあり、洗濯や便所などの用途によって最小の管径と勾配が規定されていたりする。他にもにおいの逆流や虫の侵入を防止するための封水トラップを設けたりしなければならないし、トラップを設けるなら封水トラップが破られないように通気のできる排水マスを設けたりすることも必要なので、単純にそうめん流しのようにはいかない。

排水するだけなのになぜ別の管が必要なのか。

建物の周りにはいくつかマスがある。それは誰もが何となく知っているとは思うが、その役割や種類について深く考えたことのある人は少ないかもしれない。排水管にゴミや泥などを詰まりにくくしてくれるためにあり、雨水を流す雨水が流れるマス、汚水を浄化槽や下水道に流すまでにある汚水マスと通気用のマス、浄化槽のマス、散水栓や量水器のマス、公共下水道のマスなど。先ほど通気のできる排水マスと書いたが、この通気管は、私も教科書のイラストを見ながら勉強をしているときにはイメージがわきにくかった。排水をするだけなのにまた別の管が必要になるのはなぜだろう。少しイメージが必要だが、ただそれさえ知ると、建物のまわりについているマスひとつひとつの役目が分かるようになるだろうし、逆にそれさえ分かれば多少細かな規定はあるものの、排水管はほとんどレゴブロックレベルだ。

この中で最も分かりにくい通気管の必要な理由としてわかりやすい日常でも目にする現象がある。その代表例としていま思い浮かぶのが、灯油を入れるポリ容器で、それには2つキャップがついている理由を知っていれば、通気管の役割が想像できるだろう。ポリ容器のキャップをひとつはずし、容器を倒してストーブに直接灯油を入れてやろうとすると、勢い良くいきたいのにボコンボコンと泡を出しながら出て、出る量が安定しないしゆっくりとしか出てこないのだが、そんな時にもうひとつのキャップのふたをゆるめてやるとジャーっと勢い良くスムーズに出る。ゆるめ具合が少しだけの場合、キャップからシューと空気が吸い込まれているのがわかるが、この二つ目のキャップが通気管と同じ役割をしている。あるいは海外の友人たちと缶ビールを一気飲み競争をする時は缶を逆さに向けて缶の底をかじって小さな穴を開けて、ヨーイドンの合図とともに缶を下向けたままプシュッと栓をあけると勢い良くビールが出て来て3秒もしないうちに飲み干せてしまうのも同じことである。

つまり、空気が抜ける場所がないと、排水は勢い良く流してもボコボコとゆっくりしか抜けていかない。ボコボコでも抜けていけば問題ないのだが、そうすると排水が押し流した管の中の空気が抜ける場所が排水元にしかないので、抜けた水が同時に排水管の空気を押し戻して下水管の異臭が戻って来てしまう。それを防ぐために通気管を作って空気をそこに出すようにするのだ。トラップというS字なりU字などの配管で水たまりを作ると水たまりが封の役割をして、排水管を使わない間も生活空間に下水管の空気や虫が入ってこないようにすることができる。トラップを作った場合は通気管がないと、せっかくの水たまりを押し流してしまったりする。考えてみると簡単な理科の話で当然のことなのだが、普段生活をしていて排水管のことはほとんど考える人はいないだろう。知識を知恵に昇華させる、とても良い時間となった。

今日の作業としては、まずは穴を堀り、既存の排水管を切ってT型のチーズとよばれるジョイント(本当は曲がりのついたチーズが良い)を専用の接着剤を塗って接続し、きちんと勾配をとって横方向のパイプを入れるだけのことである。

文章にすると短いが、石をはつる工事は家にある普通のハンマードリルではしんどく、排水管に基礎の下を横切らせたらすぐ屋内土間コンクリートの上まで立ち上げるようにして、最小限の工事にしておく。この後には床下を通して、洗濯機の排水口の下まで届くようにする。本当はもう15cmほど埋めたいのだが、友人Kが早くブロックを積みたいから早く配管をしろと言うので断念した。友人Kがこの道30年、師匠のOさんを助っ人に連れて来てくれていたので、仕事をしやすいように段取りをするのも大事な事だ。住む家ではあるが、借家なのでこだわるところはこだわりつつ、妥協できる所は妥協しよう。

T型のチーズを入れた上部には既存の点検用のふたがついていたが、それを通気ができるふたに変えるとこれが通気管の代わりになり、排水もスムーズになるはずだ。(実際は平屋建ての住宅程度であれば必要ないようだが。)洗濯機側にはトラップをつけて、排水管からの空気や害虫の逆流を防ごう。なお、排水管径は既存のサイズを生かして洗濯用の通気立て管の菅の呼び径は(大きすぎるが)75、そこに接続する洗濯機排水と台所の流し用の径は50にした。

(2024.6.3追記)屋内床下の配管を行った。それぞれキッチン、洗濯機、洗面所へ管を分岐させる。

すべてVP50の塩ビパイプを使い、継手はDV継手というものを使う。パイプの曲がり部分は主にゆるやかに曲がった大曲り(LL)というものを使った。縦管立ち上がり部分の継手は特に普通のエルボ(DL)のように曲がりが急だと流速がスムーズではないので大曲りが良いらしい。他も配管スペースに余裕のあるところは大曲りにしておいた。

まずはVP管を塩ビカッターで必要な寸法にカット。継手のパイプ挿入しろが25mm、パイプの中心から挿入されるパイプ先端までの長さは測ってみると普通のエルボは34mm、大曲がりエルボは66.5mm、だったので必要長さはそれらを駆使して求めた。

パイプはこれまでパイプソーで切断していたが、配管の数が多いのでVP50まで切れるサイズのカッターを買った。カットしたいパイプの長さが短い場合はパイプが変形してしまうので両側に仮で継ぎ手をはめこんでおいてからカットした。カットしたら切断面の外側を面取り器で2mmほど面取りしておく。

なお、排水工事に使われるパイプはVP管とVU管というものがあり見た目は同じなので注意する。外径は同じだが内径が違うため、DV継手という継手とVU-DV継手というものがあり、後者はVU管用なので注意。また、VU管は薄いのでカッターで切ると変形してしまうのでカッターで切ってはいけない。屋内の排水管はVP管、通気管や屋外の排水管はVU管が使われることが多いらしい。

パイプを接着剤で接続する前には床根太から吊り金物を使ってパイプを吊るし、勾配が1/50確保できる高さに固定してから接続した。寸切りボルトを必要な長さに切って吊るすことで、ねじを回して微妙な高さを調整できる。吊り間隔は配管の太さによって適当な長さがあり、50のパイプであれば1200mm程度以内が良いようだ。

勾配の1/50は水平器の中心より左右に3本線があるが、その一番外側の線に水平器の気泡が来るようにすればOK。真ん中の線は1/100。

できたら断熱材と床板を貫通させて、その後、器具と接続すれば排水工事は完了。

なお、以前は通気管の役目を大いに説明したが、今回は設置を省略することとした。パイプ内の空気をたくさん動かす2階などからの落差のある水の配管がないし、大量に流すようなこともあまりないから特に不具合は起きないだろう。万が一必要になれば床下に潜ってパイプを切ってドルゴ通気弁という逆止弁付きの通気管などを繋げばすぐに解決できる。実際、前の家にそこまでのものは必要なかったと今になれば思う。理論ばかりだと頭でっかちになってしまうので、実践を繰り返すことが大事だ。

また、洗濯機排水が上からキッチンの排水と合流する箇所は90°大曲りで合流する管(LT)を使ったが、上からの合流には45°に分岐しているY字型の継手(YT)を使う方が良いようだ。ただ、今回は大量の水が一気に高いところから流れてくるのでなく排水方向に横から勢いづいた水がほんの少しの落差で流れてくるだけなので支障がないだろうと考え、買ってしまった商品そのままでいくことにした。

配管はなんとなくでもできてしまう。例えばVP管同士の接続にVU-DV継手を使ったとしても、排水の合流部に普通のチーズを使ったとしても問題なく使えるだろう。よっぽどでなければなんとなく機能を満たし、実際あまり問題が表面化することもない。しかし、適材適所のパーツがあってきちんと最適解がある。全然オシャレじゃないネズミ色のパーツと思っていたものたちは機能を満たすのにふさわしい形になっており、まさにデザインだと思った。

ひょんなご縁から理想的な環境の古民家に出会ったデザイナーが、その日々の中で身につけた業を、日々の暮らしとともにアーカイブして行くウェブサイト。100の業が溜まったら、cotocotoというタイトルで誌面化予定。

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