3月。寒い冬の終わりを知らせるかのように綺麗な梅が咲いた。その梅の合図で他の草木も少しずつ目覚めるかのように春の装いを見せるようになってくる。そんな中、ぽかぽか陽気の日に春の訪れがもたらす多幸感に包まれながらする仕事といえば、スタッドレスタイヤからノーマルタイヤへの履き替えだ。雪が降る地域ではみんなだいたい倉庫に夏は冬用のタイヤを、夏は冬用のタイヤを保管しているように思う。農村では大人の家族の人数分+αの車があることが多いのでちょっとした行事事となる。
以前、近所に都会から移住して来た友人の家に遊びに行ったときのこと。自分の停めた車の横に彼の軽自動車が置いてあったのだが、後ろのシートを倒してタイヤが積んであった。なんとなくあまり見ることのない風景だったので話を聞くと、これからガソリンスタンドに変えてもらいにいくとのことだった。わざわざ遠いガソリンスタンドに行くのも大変だと思い、車に積んでいたレンチとジャッキでタイヤの替え方をその場でレクチャーするといたく感心されたことがあった。彼は車の安全性に大きく関わるタイヤを自分で替えるという発想がなかったようなのだが、逆にずっと車社会の農村にいた私はタイヤ交換をしにいく人に出会った事が無かったので新鮮だった。タイヤ交換はそのくらい農村暮らしにはポピュラーな業だと思う。毎年家族で4台、タイヤを年に2回変えてもらおうとすると、それだけでそこそこの費用にもなるし、車屋に何往復もしないといけないだろう。
それ以降、きっと彼は自分でタイヤを替えているように思うのだが、そのとき車載工具のみでレクチャーしたため、もうひとつだけ補足をしておきたいことがある。車載工具でも交換はできるのだが、できればトルクレンチというものを使ってもらいたいのだ。詳しくは後述しよう。
タイヤを交換しよう。
まずは車のタイヤを真っすぐにし、水平な場所に駐車する。4駆に切り替えられる車は4駆にギアを入れておく。
車に積んであるジャッキを取り出し、手でジャッキを回して車のジャッキアップポイントにジャッキを当て、ジャッキが固定されたら棒を使ってくるくる回して車を持ち上げる。ジャッキアップポイントは車によって違うので、分からなければ車の説明書を見ると書いてある。ジャッキが垂直に上がっているかは常に確認すること。持ち上げていくに従い曲がってくることもあるが、そういう時は必ずやり直しをする。下手をするとジャッキが外れ、車の下敷きになるので慎重に。
タイヤをまだ若干接地している程度まで少しだけ持ち上げる。上げすぎると硬いナットを外しているときにタイヤが回ってしまうので、そのタイヤが回らない程度まで。その状態で全てのホイールナットを少しずつ緩める。車に積んであるレンチでも出来るが、クロスレンチなどがあるとやりやすい。力が入るし、慣れると勢い良くクルクルと回せるので早い。ナットを外したり緩めたりするときは対角に緩めていく。5つのナットでタイヤが止まっているなら一筆書きで星を描くときのような順番で外していくようにする。
ナットを少しだけ緩められたらタイヤを完全に浮かせる。このとき、別でウマというものを用意し、ジャッキが外れても車が落ちてこないようにするとなお良い。
そのまま全てのナットを外し、タイヤを外す。外したタイヤには取り付いていた場所などをメモしておき、次の年にタイヤをローテーションできるようにしておくと、タイヤが長持ちする。ローテーションの方向は決まっているので前年に取り付いていたところさえ分かれば良い。スタッドレスはタイヤの回転方向に指定があるものも多いので注意。指定がある位場合はタイヤに「ROTATION」の文字と矢印がある。ホイールカバーも一緒に交換するタイプの車はホイールカバーも忘れずに新しいタイヤに装着。
新しいタイヤを取り付けたら、ナットを少しずつ締めていく。一つのナットを一気に締めず、対角に順に締める事。
それぞれある程度締めると、タイヤが接地するまで降ろし、いよいよトルクレンチで本締めする。タイヤは締めれば締めるほど良いわけではない。その昔ゆるいと危ないと思って思い切り締めてねじを切ってしまった事がある。それを防ぐために、また、バランス良くボルトを締めるためにトルクレンチを使う。レンチの手元を回して規定トルクに設定。規定トルクは車ごとに違うので車の説明書などで確認すること。スズキジムニーは100N・mとのこと。
同様に対角に少しずつナットを締めていき、カチッと音がするとそのナットはOK。勢いをつけて回すと指定トルク以上に占めてしまうのでゆっくり締めること。ジャッキを外して次のタイヤも同様に交換する。
トルクレンチはナットを外すときにも使えるような構造になってはいるが、緩めるときに使うとトルクが狂いやすいようなので締めるとき専用に使うのが良い。また、しばらく使わないときは手元のトルク値をゼロに戻して保管している。
交換が終わったら近くのガソリンスタンドなどで空気圧を確認するのも忘れずに。タイヤの前後で適正空気圧が違うこともよくあり、タイヤの位置がローテーションで変わっているのと自然に抜ける空気でばらばらの空気圧になっているためだ。適正空気圧は運転席のドアを開けたところなどに書いてあるので、自然に空気が減っていくことを考え、それより1割程度多いくらいで入れておき、常に適正空気圧以上になるようにガソリンスタンドで定期的にチェックすると良い。