Tip29: 稲を刈る

いよいよ米農家で一番大事な稲刈り。小学生で言えば通信簿をもらう日だ。この日めがけて、米をどのように育てていくか、それぞれがきちんと計画を練り、年間の作業を行っている。どんな米をどの量作り、そのためにはどの時期にどのような作業を行うか、紙に書き出すような人はあまりいないが、プロジェクトのゴールを達成するために、計画や目標を立てていくのと同じだろう。

稲刈り機を運転する

現代の米農家はほぼ100パーセント機械で刈っていくので運転のうまい下手はあればども百姓的なテクニックはほとんどない。稲刈り機、通称コンバインの操作は、田植えのときと違って必ずしも一筆書きをして刈らなくても良いので、田んぼに入る前に思案することは少ない。制約はゆるやかにカーブするか直進のみで前進して刈ることと、刈っていないところをバックで踏まないことだ。とはいえ速度は田植機よりも遅いのでいかに効率的に刈れるかだったり、土が沈みやすいところで大きく回らないことだったりも考える。コンバインという名前は刈り取りをしながら脱穀を同時に行うから、結合する、つまりコンバインという名前だ。四隅のどうしても刈れないところは手で刈る。左手で稲の根元を順手で持ち、右手で稲刈り鎌をザク、ザク、ザクとリズム良く刈っていく。

このとき、稲が倒れていると、機械が稲をすくわなかったり、すくうように地面すれすれにコンバインの爪を下げると土と一緒にすくって詰まってしまったりと作業しにくいので、皆倒れないように育てる。稲が倒れると稲がこけたとか、倒伏したと言う。倒れる原因は主には強風だ。他にも穂が長く生長する山田錦という品種は倒伏しやすかったり、肥料を与えすぎて米粒が育ちすぎて重くなって倒伏したりとなかなか難しい。多少稲がなびく程度の倒伏は良いのだが、穂が地面についてしまうと米が発芽してしまったり、変色したりして品質が落ちてしまう。

米農家の実情

今、昔から米農家をして暮らしてきた家の収益はほとんどない。安い米が出回るようになって米の値段も下がり、農業も効率化が求められるようになり機械化が進むが、稲刈り機だけで250万〜1000万円以上、他にも田植機、乾燥機、トラクター、籾摺り機、肥料代、苗代他、それらの置き場も必要なのでよほどの大地主でなければ採算が合わない。例えば我々の地域の昔は米を専業でしているような平均的な規模の米農家であれば収入が例えば100万円前後、10年ただ働きして1000万でやっと機械代が取り返せると思いきや、また機械が壊れたり、土砂崩れに見舞われ、修復代に300万かかるなどと、何をしているか分からない状態になる。そこで、我々の集落では共同で営農組織をつくり、みんなで大きな機械を買って、みんなで米を育てる仕組みになり、他にそれぞれの仕事を持つか、年金で暮らすというような運営となった。個人の家で稲刈りと田植え以外の管理を行って、ほんの少しのお金が各家に残る。ただ、ほんの少しのお金しか残らないので専業の米農家はいなくなり、皆土地を維持するために週末に片手間で米づくりをしているのがリアルな実情だ。

土を耕す農民の暮らしは美しい。

米農家の実情を話したが、米を作る暮らしとしてはとても豊かだと思っている。手元に残るお金が少なくとも、米と少しの漬物さえあれば日本人は暮らしていけるのだから、最悪食べ物が買えなくなっても暮らせるという安心感はあって、それは不安定な世の中で大きな安心となる。人は家から出て家のすぐそばで外仕事をするから皆顔見知りで、軽トラックですれ違ってどちらかが車を停めたら後ろから車が来るまで運転席から顔を出してしばしの雑談をする。田んぼは人と同時に生き物たちの住処ともなり、夏の夜にはカエルの音楽会の会場。秋にはあたり一面黄金色の中をイナゴが飛び跳ね、刈り終わった田んぼは子どもたちの運動場と化する。人との営みとともに自然が春夏秋冬移ろいながら一年がまた過ぎてゆき、自身の中に季節や人の移ろい、時間を宿すようになる。それはともすれば時間とともに老いて自然に還っていく自身を受け入れていくような僧侶のような感覚だろうかと思う。汗水たらして田畑を耕し、土手に生えた木のふもとに腰を下ろして鳥の声をBGMにして水筒の冷たいお茶を飲む。米を作れば穏やかな心で平和な暮らしを実現できるかもしれない。

ひょんなご縁から理想的な環境の古民家に出会ったデザイナーが、その日々の中で身につけた業を、日々の暮らしとともにアーカイブして行くウェブサイト。100の業が溜まったら、cotocotoというタイトルで誌面化予定。

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