乾かして薪になる。
生木を使いやすいサイズに割ったらそれがそのまま薪になるわけでなく、乾燥させることで薪になる。生木のままでは水分を多く含んでいるので、煙がたくさん出てすすもたくさん煙突についてしまう。そこで、普通は割ってから少なくとも半年から1年、棚に置いて乾かしてからストーブに使う。つまり今割る薪は来冬のためで、今から春ぐらいまで薪をのんびり仕込んでいく。ただ、それでは今年の薪は間に合わない。
そこで、大家さんの植木屋に手伝いに行き、手頃な枯れた木を倒す仕事のときに出た薪をいただく作戦にした。枯れた木は乾いており、枯れ具合によっては乾燥行程なしにストーブに使えるのだ。
薪割りは想像していたとおり大変で、想像していなかった発見がある。
まずは集めた木の丸太たちをチェーンソーで薪として使いやすい長さにしていく。この作業を玉切りと言うらしい。うちの薪ストーブに適した薪のサイズはだいたい35〜40cm程度だ。
その後はいよいよ誰もが想像する薪割りで、玉にした丸太を太い切り株の上に置いて斧を振り回す。まずは木のど真ん中をめがけてと思うかもしれないが、多少太い木はいきなり木の芯に斧を思い切り振りかぶってもびくともしないので中心より少しずらして狙いを定めるのが良い。だが、今年の木に関しては乾いた木ばかりなのでとても硬く、ものすごく体力を使う。木は乾燥して含水率が下がると強度があがるので、多くの木は生木のときが割りやすいし、割ると乾きやすいので基本的には薪棚に並べていく前に割るものだ。薪割り機を買うことも考えたが、まずは手が基本だと考え直し、家の倉庫で錆び付いていた和斧を研いで若さと気合いで頑張った。何度も振り下ろしてこそ、割れやすい樹種や方向が見えるようになってくる。なんでもかんでもいきなり機械というのもすっ飛ばしている感じがする。暮らしに関わる道具は効率だけで選びたくない。早速家の納屋から錆びた斧を取って来て刃を研いで割ってみるが、なかなか一打で割ることは難しく、田舎の家の納屋にあるような和斧なら大抵一打目で丸太に挟まって抜けなくなる。はじめはそれを一度抜いてからもう一度打ち込むものだと思って抜くのに苦労していたのだが、研究してみると二打目は打ち込んで挟んでしまった木ごと持ち上げ、上空で斧を逆側に返して木を上にして斧の背で土台の木を叩くように振り下ろすと良いということが分かった。それでも割れなければくさびを打ち、ハンマーも併用しながら割れば良いが、それでも割れない堅い木の節の部分などはチェーンソーで縦切りにするか、薄く輪切りにするか、あきらめて丸太の椅子にしてみたり。暮らしに直接つながる行動は何でも便利でなくても良いし、やってみればその中には発見があるものだ。
薪は無垢の木
薪割り生活を始めて隠居的な暮らしというより、創造的発想を手にすることができたのがとても良かった。高値で販売されている無垢の木のテーブルと山に生えている木が同じという当たり前のことをきちんと意識するようになった。当然のことながら切り倒した大きな木を板状にスライスすればいい感じの木目の一枚板が手に入るのだ。その木の塊に穴を掘って土を入れれば小洒落た植木鉢にもなるし、ナイフで削りだせばスプーンやフォークにもなる。薪を割りながらちょうどいい太さで木目の枝を見つければそれをカットしてそのままコースターにしてみたり、木の枝をいい感じに残したまま先を尖らせた杭にして照明を吊るしてみたり、穴を開けて鉛筆立てにしてみたり。
それを聞くとそこまで創造的であるようには聞こえないかもしれないが、建築士が図面で建築を考えると線と面の組み合わせでしか考えることがほとんどないので、木の塊で考えるようになれたのは目から鱗だった。塊で考えるというのは、へこみをつけたり丸くしてみたりと彫刻を彫るかのように考えて自由な形を実現できるということだ。日本の建物の大半である木造建築の多くは製材所で板と柱にされたもの、つまり面と線の組み合わせなのでなおさら塊で考える発想が出てこない。次大きめの丸太が入ったら、彫り込んで洗面ボウルと一体型の洗面カウンターにできまいかと計画中だ。その前に60ccぐらいの良いチェーンソーとそれで木の板を挽くことのできるガイドがほしい。何なら良い斧も欲しいし、山で創造的なことを実践していくと仕事道具の物欲がどんどん湧いてくる。カメラのレンズをたくさん揃えていた頃と趣向は変わっているが、仕事に使うものという点では同じだろうか。現金も必要なのでデザインの本業の方もおろそかにしてはいけない。
薪がつなぐ縁
ご縁で植木屋さんの家を借り、はじめは薪ストーブについて考えてもいなかったのだが、丸太は山に放って腐らせて処分するから不要だし、何なら腐るまで時間がかかり、処分する場所も手狭になってきている、というのを聞いて薪ストーブにしようと考えはじめた。薪ストーブユーザーがまず悩む、薪をどう調達するかという問題は木に身近な暮らしをしている限り全く心配がなく、植木屋としてはゴミが山で腐るのを待たずとも現場帰りに置いていけば綺麗に片付くしWIN x WINではないか。そうやって薪ストーブ設置を決めた。それから私が手伝いに行く際に手頃な丸太があれば少しずついただいていたのだが、最近は私が手伝いに行かないときでも手頃なものがあると適当に置いて行ってくれたりするし、気軽に寄って下さる関係ができると、他の用事でも家族のようにお世話になったりと、薪とともに暮らしと土地、そして人との関係ができていくのがとても良い。
次はいよいよストーブの設置。近頃は朝晩は寒くなって来た。稲刈りがこれから始まるのでそれまでは着込もう。