Tip52: 特殊伐採

事務所の目の前にある15mほどの杉の木が枯れてしまった。葉は茶色くなって落ちてくるし、幹には蟻の大群が歩いていて、樹皮が剥がれてきている。まだ何年かは大丈夫だろうが、放っておくといずれは木が傾いてくるだろう。手がつけられなくなる前に切り倒しておくのが良い。

しかし切り倒そうにも家や薪小屋、柿の木があって、切り倒す方向が予定より5度狂うだけで何かしら壊してしまうか、他の木にひっかかって倒せなかったりするだろう。そこで、木に登って木の上から順番に少しずつ切ることにした。

こういうふうに高所作業車が入れないような場所で、人が木に登って切っていくことを特殊伐採といい、高層ビルのない昔はその職人のことを空に最も近いところで仕事をすることから、空師と呼んだそうだ。

昔はアクロバティックな側面もあったようだが、昨今は欧米の伐採技術が日本にも入ってきており、道具を使いこなすことができればかなり安全に仕事ができるようになっている。

今回切り倒す杉の木は真っすぐ上に向かって伸びる。通常杉の下の方の枝は剪定してあり、枝があっても混み合っているし細いしで枝を頼りに登ることができず、枝を切りながら幹を登っていく。言わば、垂直に立てられた棒を登るようなものだが、流石に小学生の頃よく登った登り棒のようにはいかない。大人は登って降りるだけでなく、体力を温存して登り、登ってからも手を離して仕事をしないといけないので装備を頼りにする。

太い針を足に固定し、木に刺して、ロープに体を預けて体を倒して三角形を作り、バランスを取りながら登っていく。ロープを使って木を傷つけずに登っていく方法もあるが、今回杉の木は伐採してしまうのでスパイクをおもいっきり刺せば良い。そして命綱はふたつ使う。そうすることで、例えば邪魔な枝をよけるために一瞬ひとつ命綱を外してももうひとつがあるので安心だ。といっても、今回は枯れた木で、ロープにかけたテンションで木が折れたりすることも考え、木の状態を見ながら油断せずに作業することが重要だ。

安全に切り倒すことができるであろう目標地点に到達すると、1本の命綱を幹に1周巻き、2本ともテンションをかけて安全確保。チェーンソーで先に倒す方向を三角形に落として受け口というものをつくり、反対側からチェーンソーを入れていく。切れる寸前でチェーンソーを止め、狙った方向にゆっくり倒す。下に落とすと支障がある時は木に滑車を取り付け、ロープで結んだ木を切ったら下にいる人にゆっくりロープで下ろしてもらう。この作業を切り落としても問題なさそうなサイズごとに繰り返しながら降りていく。狙い通りの方向に切り落とすことができないと、自分の方に倒れてきて命綱と絡まり一緒に落下、ということもありうるので、登る作業は地上で狙った方向に木を倒す方法やチェーンソーワーク、ロープワークをマスターした上で、下に同じような作業をマスターした救援者をひとり以上つけて作業をするべきだ。

木は全ての生き物に必要なもの。

樹齢何千年という木があるので木はいつまでも生きられると考えがちだが、木にも寿命がある。病気で死んでしまうこともある。死んでしまうと倒れてくるので、下に人間が通る場所である場合は倒れる前に安全に倒してあげないといけない。街中では電線や建物、道路等障害物が多いため、下の方から一気に切り倒さずに高所作業車のかごに乗って上から少しずつ切って吊り下ろしていくことが多い。車が入れなければ特殊伐採の出番だ。生きた木も多くは人間よりも長生きをし、伐採をせずに、放置し続けると地面や建物の基礎を割り、人間の手で作られたものを飲み込み、自然に還していく。そうなると人が作ったものばかりの街中では不都合だから、必ず剪定や伐採、時には特殊伐採が必要なのだ。

街中で木々を管理するのは手間であるには違いないが、なぜ人は木を植えるのだろう。それは木は空気を浄化し、人の心に安らぎをもたらしてくれる、全ての生き物に必要な存在だからに違いない。普通に生活するだけでは暮らしに木々があるメリットを知りつつも普通は何も行動が変わらないので、暮らしの中で木々からエネルギーを取り出したり、手を入れる人が増えるといいなと思う。それを実践して環境意識を持つよう強要するつもりもないし実践したとしても意識が持てるわけではないと思うが、私は暮らしの中に循環があれば、穏やかな気持ちになれるし、人も植物も健やかに共生していけるのではと考えている。今回倒した杉は薪か資材にさせてもらって、資源として大切に弔おうと思う。

(24.01.20追記)

山の中に住んでいると、山というよりむしろ自分の家の庭のようなものだが、管理するのにたまに特殊伐採をしている。移住して初めての春、きれいな山桜に檜の木がからんでもったいなかったので絡んだ木を上から少しずつ切っていった。絡んでいると切り倒そうにも倒せない。今度は枝に引っ掛けたロープを登っていく方法で作業する。ダブルロープとシングルロープで登る方法があり、この日はシングルロープで登ってみた。シングルロープは早く登れる分、命を守るためにより高度な知識が必要なのと、高価な道具沼が待っているので要注意だ。

スローラインという糸を投げ、糸をたぐり寄せてクライミングロープを木にかけ、ロープを使ってトップアンカーというものを樹上に設置。ロープを固定したらロープに登っていく。あとは邪魔な枝を払いつつ、上から切っていくだけ。他の木にロープを結んでいるので命綱で登っていったときよりも幾分気楽だ。

ひょんなご縁から理想的な環境の古民家に出会ったデザイナーが、その日々の中で身につけた業を、日々の暮らしとともにアーカイブして行くウェブサイト。100の業が溜まったら、cotocotoというタイトルで誌面化予定。

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