Tip61: 放置されたエンジンを復活する

農村地域の物件を譲り受けることになった場合、綺麗に物が片付けられているというよりは多くは現状のまま、その倉庫にはガソリンで動く農機具が眠っていることが多いのではないだろうか。しかもそれは大抵長期間放置されたものだったりする。放置時間や放置するときの状態によるが、何も整備せずにそのまま使えることは稀かもしれない。エンジンがかからないとただのゴミなのでまず修理屋に出すか、捨ててしまうしかないが、それがガソリンか混合油を燃料とするエンジンの場合は割と基本的な整備で動くようになることが多いので、ぜひその修理方法を身に付けたい。田舎の空き家の倉庫はがらくたばかりのように見えるが、エンジンの修理方法さえ身に付けていれば宝の山に変わる。元の所有者がその場所で必要となり購入した物なので、それは必ず日々の暮らしに役に立ち、できることを飛躍的に増やしてくれることだろう。

運搬車の不動の原因とは

購入した山に付属する倉庫にも例に漏れず最低15年以上は放置されたであろう運搬車が眠っていた。運搬車とは農業に大活躍する農耕作業用の車で、速度は人が早歩きするほどしか出ないのだが、近距離で資材や土を運んだりするのにとても便利だ。戦車と同じクローラー(キャタピラ)かオフロード用のタイヤで走るので、とてもタフで、ぬかるんだ畑の中や急な法面などもお手の物。エンジンは車と同じガソリンで動く4サイクルエンジンのものがほとんどで、そのガソリンがしばしば長期保管時、エンジンの不動の原因となる。

ガソリンは長期間放置すると変質してしまい、水と分離して燃料タンクを錆びさせたり、ワニスと呼ばれる黒い粘着質な固形物となって、部品の燃料の通り道に固着してしまう。そのため、ガソリンを抜かずに長期放置された痕跡が確認できればエンジンがかからない原因は十中八九その変質したガソリンであり、逆に言えばそのガソリンが通る経路を綺麗にしてやりさえすればエンジンが直ることも多い。

今回はそれ抜いていなかったのであろうことは明らかだった。燃料タンクを開けると強烈な匂いとともに中には何やら気味の悪い黒い固体が確認できた。燃料コックは開いたままで、キャブレーターという燃料を噴射するパーツのドレーンを開けてみると黄色く変質したガソリンが出てきた。この通称キャブを掃除する作業が不動エンジンを動かす上で最も基本の作業となる。

パーツをばらしてガソリンの通り道を掃除する

まずはガソリンが入っているパーツをひとつずつ現状を確認しながら外していく。燃料ホースの中まで粘着質な黒い個体がこびり付き詰まりかけていたのでかなり重症と判断し、燃料タンクからキャブレーターまでの経路にある燃料ポンプや燃料コックもばらして掃除し、ホース類も全て交換することにした。案外再び組み付けをする際にパーツの向きや差してあった穴などに迷うこともあるので作業に慣れないうちはパーツをばらす前に写真を撮っておくと良い。

燃料タンクが外れたら、洗剤と高圧洗浄器で汚れを落とせるだけ落とす。その後、薬剤を1日お湯につけ込んでさらにさびを落とす。その薬剤は花咲かGと言うものが有名らしく、錆び落としと防錆処理ができるようだ。花咲かG の使い方は説明書きのとおりだが10~20倍に希釈した液でタンクを満たし、放置した後に洗い、まださびが残るようであればタンクに液を戻して繰り返す。今回はひどいサビだったので丸2日つけ込んだ。使用後の液は保管しておけば再利用できるようだ。

つけ込んでいる間に他の物も洗浄する。先述のキャブレーターをばらしてキャブレータークリーナーで洗浄。このとき、初心者はねじを何でもかんでも外さず、メインジェットとパイロットジェットというネジだけにしておく方が無難。ネジに空いている小さな穴が重要なので詰まっていたらしっかり洗浄液につけこむ。穴という穴にスプレーを吹き込んで、穴がつながる先から出てくるまで徹底的に洗浄する。洗浄できたらパーツクリーナーで洗って乾燥させる。

次は燃料ポンプと燃料コック。運搬車に付いていた燃料ポンプは、エンジンの負圧を利用して燃料を送る負圧式というもので、エンジンと燃料コックとキャブレーターにつながっていた。これも穴という穴が黒い固体で塞がっていたため、キャブレーターと同じ要領で穴という穴が開通するよう掃除をした。燃料コックにもごみがたくさん溜まっていた。

あとは燃料ホースを全て新品に交換して燃料の経路がおそらく開通できた。いろいろなパーツを触るので複雑な作業に見えるが、要するにひたすら掃除して燃料の通り道をつくる作業。水が溢れ出した排水溝の蓋を開けて掃除してまた蓋を閉めるようなものだ。

燃料の経路以外に一応スパークプラグの汚れを掃除し、火花を吹いているかも確認しておく。スパークプラグというのはライターで言う着火する石のようなものだ。確認方法はプラグを外してキャップを付けたまま、電極側を火花が飛んでも危なくないであろう位置で先端を金属部分に触れてアースさせ、リコイルをゆっくり引けば、確認できる。汚れはそこそこだったが、火花が散ることを確認できたのでOK。

再度プラグを取り付ける前に燃料を入れ、リコイルを数十回引いて燃料をキャブレーターまで送れたらプラグを取り付け点火準備が完了。チョークを閉じ、リコイルを勢い良く引っ張る。最初はエンジンの吹きが悪く、チョークを戻すと止まってしまったりしたが、しばらくチョークを完全に戻さずアイドリングさせ、少し時間を置くと調子が良くなった。マフラーも火花を時々吹いていたが、しばらくするとホコリが燃えきったのか、出なくなった。これで作業は完了だが、エンジンオイルとギアオイルもかなり汚れていたので少し様子を見てから交換したい。

今回は運搬車を復活させたが、翌日は同様の手順で長年放置されていた耕耘機を復活させることができた。エンジンのついた農機具は同じような構造をしており、さまざまな不動の原因はしばらく使わないことによって起こるこのような詰まりによって燃料が正しく送られないことであることが多い。

修理屋に頼まずに復活できれば修理費が浮くだけでなく、ある程度エンジンの仕組みを理解でき、さまざまなことに応用ができる。ひとつひとつ分解して掃除することでエンジンの仕組みを少しずつ理解していくと、長期保管するときガソリンエンジンはきちんとキャブレーターまでガソリンを抜いておくなどの知恵が身に付き、日々の道具の運用にも役に立つし、道具の不具合の症状によってどこがどのように悪いか見当がつくようになってくる。道具の状態を把握し、道具を100%使いこなしたいものだ。

エンジンが実現する、手作業ではなし得ない作業効率とものづくり

エンジンは言うまでもなく便利だ。電源のないところで燃料の爆発する力でエンジンを回転させ、その回転する力を利用して人間の手作業ではなし得ない作業効率を実現してくれる。エンジンでなく電気で動くもの、あるいはその電気を作り出す発電機などもだが、世の中のさまざまな機械はほとんどがこの回転するということを利用して作られていて、運搬、工作、建設など、あらゆるものづくりに生かされている人類至上最大級の発明なのだ。しかもその動力は自分の力を一切使わない。そんな道具のことにもう少し詳しくなれたら、それはこれからのものづくりやデザインに生きてくるかもしれない。

ひょんなご縁から理想的な環境の古民家に出会ったデザイナーが、その日々の中で身につけた業を、日々の暮らしとともにアーカイブして行くウェブサイト。100の業が溜まったら、cotocotoというタイトルで誌面化予定。

くわしく見る

お問い合わせ




2021年3月から岡山県加賀郡吉備中央町の山林を譲り受け、セルフビルドで改修中。見学お手伝いは大歓迎!詳細は078-220-7211 (cott)またはこのメールフォームにてご連絡下さい。

More Stories
Tip60: 模型を作る